<あらすじ>
盗人である鬼鮫は、自分のことを「酷薄無残で、なさけ知らずで、いちどこうと思えば女であろうと童児であろうと、平気で打ち殺し、八つ裂きにすることのできる人間」だと豪語する。彼は民から搾取する貴族を自分と同じ盗人と呼び、貴族の財宝を狙う偸盗であるが、なぜか失敗ばかりしてしまう。ある日、鬼鮫は中将の末の娘である十五歳の品子を誘拐し、身の代金を要求する。品子は美貌と才に恵まれ、ゆくゆくは東宮のきさきに召されると噂だという。だが誘拐してきた品子は、とんでもないばくれんものだった......。
テンポが良く、舞台演劇を見ているかのような、コミカルでクスリと笑える物語で最後のオチまで楽しめる。
山本周五郎(やまもと・しゅうごろう)
1903~67年。小説家。山梨の生まれ。本名・清水三十六(さとむ)。名は生まれ年からつけられ、筆名は東京で徒弟として住み込んだ質屋「山本周五郎商店」にちなんだ。20代前半に作家活動を始め、39歳の時『日本婦道記』が直木賞に推されたが受賞辞退。その後も多くの賞を固辞する。江戸の庶民を描いた人情ものから歴史長編まで作品は数多い。代表作には、「樅(もみ)ノ木は残った」「赤ひげ診療譚」「おさん」「青べか物語」「さぶ」などがある。1987年9月には、「山本周五郎賞」が新潮文芸振興会により設定された。